2011年9月、プロの投資家が東京電力は「買い」ではないと間違えた3つの理由

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2011年の9月に森元紀行さんというプロのファンドマネージャーの方が電力株について考察しています。東日本大震災が起きたのは、2011年3月のことなので、わずか半年後に書いた記事になります。

 

氏の経歴を見ると、東京大学文学部哲学科卒業、三井生命の年金資産運用をファンドマネージャーとして経験し、1990年1月ワイアットに入社、日本初の事業として、企業年金基金等、機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げるなど、華やかな経歴を持ちます。

 

プロの機関投資家にコンサルするくらいなので、相当な知識を持っている方だと判断します。このプロのファンドマネージャの方が、当時の原発事故、東京電力株をどう考えるのか非常に興味がありました。

 

「電力株は買いか、東京電力はどうだ」

電力株は買いか、東京電力はどうだ|森本紀行はこう見る|機関投資家・資産運用業界向け資産運用総合情報サイト【fromHC】

 

氏は電力株が買いかどうかは以下の3つがポイントにあるといいます。

 

①東京電力の原子力事故は一時的な問題にすぎず、東京電力の企業価値に本質的な影響を与えるものではないのか

 

②東北電力の地震や津波による被害は一時的なもので、東北電力の企業価値に本質的な影響を与えるものではないのか

 

③他の原子力発電施設をもつ電力会社については、停止している原子力発電所の再稼働をめぐる不透明性は一時的なものにすぎないといえるのか

 

結果論にしか過ぎないのですが、残念ながらこの3つはすべて見誤ったことになります。プロの投資家が東京電力は「買い」ではないと間違えた3つの理由は以下になります。

 

①東京電力だけが原発事故の負担をする
②原発が政治的に再稼働しないと判断した
③電力会社が地域独占企業であることを考慮できていない

 

東京電力の株式の価値はほとんどない?

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東京電力株価10年

 

そうそうに結論を出していますが、東京電力の原子力事故については、根本的に企業価値自体を毀損するような深刻なものであるため、株式の価値はほとんどないと結論付けています。

 

審査前の2011年1月の株価は2000円、この記事が掛かれた2011年9月は380円でした。氏の予想が正しかったかのようにその後は株価は200円台まで下がり、2012年12月には最安値の130円まで大暴落しました。

 

しかしながら、興味深いことにその後は予想と反し株価は徐々に回復、2013年6月には600円、現在は450円前後で推移しています。

 

底値の130円から3~4倍以上回復していることを見ると、氏の予想は少なくとも2013年~2017年の間で外れていることになります。氏のアドバイスを聞かずに、東京電力株を安値で買い進めた個人投資家は、いまごろ3倍の利益を得てることになります。


100万円で投資した場合、300万円の資産を手にします。

 

プロの機関投資家でさえ、有事の際の株価を予想することは非常に難しいといえます。結果的に東京電力株は儲けることができましたが、当たり外れが大きいことを考えると投資をしない方が正解かもしれません。

 

株式の価値はほとんどないと考えた理由

 

東京電力の株式の価値がないと考えたのは、原子力損害賠償に関する政府の支援がなければ経営破綻すると見込まれるほど、巨額な損失をもたらすからです。巨額な政府支援額の長期にわたる弁済を考えると、将来的な企業価値自体が根本的に毀損したと考えています。

 

たしかにその通りなんですが、賠償による費用は東京電力だけではなく、原子力発電所を持つすべての電力会社が実質負担することになりました。これはアメリカで起きたスリーマイル島の事故を考えると想像に難しくはありません。

 

すべての電力会社で負担するというニュースは、東京電力にとっては良い知らせです。

 

仮に10兆円だったとしても、10社電力会社があれば1社あたり1兆円になります。1兆円というのも決して小さい金額ではありませんが、巨大な日本の電力市場を考えるとそれほど非現実的な数値ではありません。

 

当初、損害・廃炉費用は10兆円と見積もられましたが、2016年は20兆円に膨れあがると報道されました。このニュースが報道された後も、東京電力の株価は400円以上を維持しています。

 

今後も電力会社が安定して収益をあげられると考えると、それほど悲観する数値ではないのかもしれません。

 

東北電力などの他の地方電力会社も買いではない?

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東北電力株価10年

 

氏は東北電力についても買いではないと言います。理由は東京電力の原子力事故が、東北電力を含めた全ての原子力発電所施設をもつ電力会社において、経営環境に関する不確実性を大きくしてしまったからだと言います。

 

株式投資で普通の場合、事故は買いというセオリーがありますが、今回の事象はこのケースに入らないといいます。

 

本当にこの事故は電力会社の経営環境を不確実なものにしてしまったのでしょうか。

 

わたしは逆にこの事故が、地方電力会社が持つ独占企業の地位をより鮮明にしたと思っています。

 

なかでも東北電力株は地方電力株の中で最も順調に株価を回復させている銘柄です。

 

2012年8月に497円を付けた株価は順調に回復し、現在は1500円まで回復しています。これは他の地方電力よりも大きい値上がり幅です。

 

これも完全に読み違えています。

 

原子力発電所は再稼働しないと結論付けている

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氏は政治的な理由で原発は再稼働しないと予想しています。

 

中部電力を例に出し、1000億円の津波対策工事、停止した電子力発電所の代わりに火力発電を強化したことにより、2000億円もの経常損失を計上しました。氏は中部電力の浜岡原子力発電所の停止による追加費用は、一時的なものではなく未来永劫的に続くと考えています。原発が再稼働しないことを前提にしています。

 

しかし現実にはどうなったでしょうか?

 

民主党から自民党へ政権が戻ったことで、原発が安全審査に合格すれば再稼働されることになりました。2016年はすでに10基近い原発が合格証を手にしています。浜岡原子力発電所も数年後には再稼働することになります。

 

さらに興味深いことに、大半の電力会社は原発再稼働を待たずして赤字を脱却しています。震災後から3~4年後は、原発に依存してた電力会社の収支はずっと赤字でした。しかし、大半の電力会社は電気料金を大幅に値上げしたことによって収支を大きく改善させることに成功しています。

 

これは既存の電力会社が完全な地域独占企業であるからこそできたことです。仮に原発が未来永劫再稼働しなかったとしても、電力会社が長期にわたって赤字を垂れ流すとは考えづらいことです。

 

14年と15年の世界的な原油価格の暴落も追い風になりましたが、仮にこれがなかったとしてもさらに電気料金を値上げすることで赤字から脱却しています。

 

氏は電力会社が独占企業であることを見誤ったことになります。

 

「事故は買い」という格言は今回の原発のケースでも「今のところは」正しかったようです。

 

後半は白黒はっきりと論を展開するわけではなく、濁した形でフェードアウトしていきます。この業界に長くいる人ほど、マーケットはどうなるかわからないとうことを心得ているので、大概こういう締め方になります。

 

これは金融業界でプロとして長年生き残っていくための知恵になります。

 

東京電力にはほとんど投資価値がない、と私はいいました。しかし、全くない、とはいっていません。ほとんどない価値を反映した価格か、それ以下の価格でなら、東京電力は買いだ、ということになるのです。

 

ただ、コラム前半であるように氏はハッキリと今の状況では東京株は買いではないと言及しています。

 

配当金を貰う権利を格安で手に入れる

 

わたしが電力株に参入を検討し始めたのは2013年後半あたりですが、早い投資家は2012年の底値を付けたあたりから買いに入っています。

 

当時も電力会社の経営が圧迫してたけれども、彼らは電力会社の地域独占性を高く評価しています。電力自由化後も新規電力会社が参入してくるのは限定的です。電力事業の専門性や事業規模、政府に優遇されていることを考えると、新規参入者にとっては中々厳しいものがあります。

 

直接事故を起こした、リスクの高い東京電力に関しては敬遠している方もいますが、少なくとも地方電力会社については多くの個人投資家が楽観的に見ています。

 

本来、配当性が高く財務が安定した企業を安く買いたたくことができる数少ないチャンスだといいます。暴落した電力株をつかむことは、配当金を受けられる権利を格安で手にすることになります。

 

資産が増えてくればこうしたリスクの高い手法は敬遠するようになりますが、短期で資産を増やすためには、こうした手法に目を向けることも必要になってきます。

 

短期で資産を増やすことを奨励しているわけではありませんが、資金が少ないうちは大胆に動くのも悪くはないと思っています。資金が少ないうちはいくらでもやり直しがききます。

 

プロの機関投資家は、こうした銘柄がチャンスだと思ってもなかなか買いに入れないところです。顧客の大事なお金を預かる以上、雇われファンドマネージャーは決められたルールにのっとって銘柄を売買する必要があります。

 

電力株のような銘柄は不確実性が高いため彼らのリストからは外れます。再び彼らのリストに電力株が乗るのは、十分に株価が回復し不確実性がなくなったときです。

 

証券口座を開設する方法

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2016年度東京電力の決算

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2016年度九州電力の決算

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